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 「長距離運行やめた」 労働時間守れず
 労基署の厳しいチェックを受けたトラック事業者から最近、多く聞かれるようになったのが「長距離をやめた」という話。

労働行政が求める労働時間の枠内でドライバーを動かすことは、現在の実勢運賃では不可能に近く、「目を付けられてしまった事業者は一様に、長距離からの撤退を余儀なくされている」(広島県の食品輸送事業者)という。長距離をやめることで売り上げが減るのも痛手だが、かといって取引先からの輸送依頼を断ることもできず、そうしたケースでは関係者の大半が「傭車に任せるしかない」と口をそろえる。紙製品を運ぶ兵庫県の事業者が指摘するように「傭車に違法行為をしわ寄せしているにすぎず、何の解決策にもならない」というのが実情だ。

 食品輸送を手掛ける広島県の運送会社は労基署による監査があった昨夏以降、長距離輸送の業務については傭車に依頼するようになった。「運賃とは別に高速道路料金がもらえる場合を除き、広島から関東方面への輸送は翌々日の到着が基本。昼前に荷下ろしを終え、それから帰り荷の積み込みに回るという従来のトンボ返りの仕事は、もう自社便でこなすことができなくなった」と社長は話す。

 とはいえ、すべての長距離便を下請けに丸投げしたのでは同社の存在意義が問われる可能性もあるため、「到着先の関東で、横持ちのような小さな仕事をかませることでドライバーの休息時間を確保し、1台だけは自社便を残している」という。こうした変化を知ってか、最近では「取引荷主からは輸送品質の問題に加え、下請けドライバーの労働時間についても元請けの当社が厳しく管理を問われるようになった」という。

 同社に限らず、「全線を高速利用で走れるなら労働時間の問題もクリアできる可能性はある」と打ち明ける関係者は多い。ただ、実際には「高速道路を使うのは渋滞が頻繁に発生する地域の迂回走行など一部に限られる」(化成品の原料輸送を手掛ける岡山県の運送会社)といったケースが大半で、そうした一般道がメーンの長距離運行では、1日の最大拘束時間や休息時間、連続ハンドル時間といった部分のコンプライアンスは至難の業となる。

 紙製品を運ぶ兵庫県の事業者は昨年から、荷主企業の要請もあって「傭車を集めて安全会議を開くようになった」という。会議では輸送品質もさることながら、過労防止や安全確保への取り組みが重点的に話し合われているようで、配車担当の同社幹部によれば「会議の内容や感想について、傭車のドライバーにもレポート提出をお願いしている。ただ、これで運送現場が抱える労働時間の問題が解決するわけではない」と漏らす。

 元請けとなって建材関係の物流などを担う広島県のトラック事業者も昨年から、輸送協力会社を対象にした勉強会をスタートさせた。取締役の1人に聞くと「これまでの会議は『早く積み込みが完了したとしても、こちらが指示した時間まで(無駄に早く)出発しない』『積み下ろしの際の待機時間は(デジタコの設定を)休息扱いとすること』『休息時間にトラックでコンビニへ出掛けるなど、イレギュラーな走行データを残さないようにする』といった実務面の内容が大半だが、専属の傭車は別として、問題は繁忙期などのスポット傭車。なかなか徹底できないのが実情」と手をこまねく。

 同社では今年から、「荷主の担当者にもオブザーバーとして会議に参加してもらうことを決めた」という。まずは、どういう問題が運送現場に存在するかを知ってもらうことが狙いで、「その先には『長距離運行は高速代を負担してもらう』『出荷を早めるなど時間を調整する』などの解決策が考えられるが、いずれにしてもトラック事業者だけで打開できるレベルの問題ではないことを、荷主と一緒に考えていく必要がある」としている。

(12/02/10)



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